座席

昇進を目論みて上に媚びる御仁少なからず。いや、それとて、ちゃんと役目さえ果たして下されば。ならば他薦はどうか。

慰留されども親を人質に取られては。後ろ髪を惹かれる想いで主君、劉備の元を去らんとするは徐庶。せめてもの恩返しと推挙するはその人。いや、彼とて容易には動くまい、自ら一言添えんと庵を訪ねれど若き孔明にべもなく。いつか詫びる日もあろう、との台詞残して。歴史に名を残す大軍師ともなれば他人から言われずと。そう、三国志より。

事の成否は二の次にして、いかなる厄介事とて二つ返事にて応じる姿勢やまさに職場の鏡。彼をおいて適任なし、などと大それたことは言わぬ。が、現場の活躍ぶり位は上の耳に届くよう。そんな策が功を奏してか、いや、実力に違いないのだけれども。この四月に晴れて本庁への異動となりしH部長。着任早々に他の市議に呼び出されて会派の部屋を訪ねて下さった際に私の名を。

後に知りて呼び出さんとすれど、本庁の部長ともなれば畏れ多く。こちらから出向くにフロア内の間仕切りなく、見渡す限り机が並び。部長たるもの、んな簡単に面会には応じぬもの。入口から最奥に陣取り、職員の働きぶりを睥睨するよう目を光らしている、はずの席がなく。呼び出し用の電話機の前にはフロア内のおよその位置と部課名のみ記され。

すまぬ、道を教えてくれぬか、と手前の見知らぬ職員に声をかければ、いぶかしげな中にもこちらへ、と。そんな猫背にて小さき画面に向き合っていては他の職員と変わらぬ。他より高い給与を得ている以上は常に部下の仕事に目を配り、夜の酒席では常に多めに支払うがその役割。自らの役職を誇示する三種の神器や「部屋」「秘書」「車」だそうで、席すらもそんな状況では求心力どころか。

それ以上に不運にも向かい側又は隣りに座る職員など一日が憂鬱になりかねず、そんな劣悪な環境下でいい仕事など。スペースを確保せんとするに他を削らねばならぬ、などとは体のいい口実であって、やはり部長席は単独に限る、か。席は日々自由などと言わば聞こえこそいいが、むしろ勝手を許すは混乱の元凶。固定のほうが毎朝の煩わしさから解放される訳で。

押し寄せる働き方改革の波やこちらも同じ。今月から一定時間を超える時間外労働に対して支払われる残業代の割増率が大幅に上げられ。そう、物流業界の話。事業主が割高な負担を減らさんとするに、過酷な実態が多少なりとも改善されるやもしれぬ。が、負担を下げんとするに仕事を減らさば運転手の稼ぎとて。

そう、本人に意に反して時間外が強制されておらぬか、時間外の労働に対して正当な対価がきちんと払われているか、が核心であって、長時間の労働こそ悪、とばかりに大ナタ振るうに負の側面とて。

そもそもに荷主側とは成果報酬、つまりは届けてなんぼの契約形態であるばかりか、時間を指定されるに悩むは配送の経路。それでいて不在、いわゆる空振りだった際など。一米のパットを外した憤慨の比ではないかも。置き配などそちらの工夫こそ。

(令和6月4月10日/2846回)