駅弁

初演は作曲者自らが指揮棒を振り、終演後における背後の喝采は奏者に言われて気付いたとの逸話残る。既に聴覚が途絶えていた訳で耳聞こえずともあれだけの曲を完成させたベートヴェンなる人物はまさに楽聖の名に相応しく。
迫り来る恐怖に対峙しつつ、絶望の淵に立たされて辿り着いた境地に遺恨の情は微塵もなく、聞く者全てを幸福感に包み込む。ファンならずとも生涯に一度は聴くべき価値ある一曲。俳句の季語にもなる位だからすっかり定着した感のある第九。年の瀬の演奏はわが国特有の現象なれどそこに合わせた日本人の音楽的センスは非凡ならざるものがあるのではないか...と解説はその程度にして。
本市が誇る音楽ホール。海外の有名オケの公演は一流ホールの証なれどその名に見合うレストランが見当たらぬ。折角の上客が他に逃げられては大きな損失。美食家を唸らせる名店を誘致して、と確かそんなやりとりだったと記憶するも、ひく手あまたの相手に譲歩するは自由競争を阻害しかねず。
旅好きな性分にて各地の名物はおよそ喰い尽くしているのだけれども駅弁なるものだけは...。確かに諸々の手間が価格に転嫁される、そりゃ分からんでもないのだけれどもコンビニの弁当を比較してしまうとやはりそこには競争を阻害するエキナカなる弊害があるのではないかと。
そう、今定例会の一般質問に本市の競馬に関するものがあった。川崎競馬は組合施行、つまりは複数の自治体が出資して運営されるもんだから本市の意向のみでは事が進むものではないのだけれども悪からぬ業績に本市にも還元される利益、いや、配当。さりとて、それが十年後も保証されるとは限らん訳で更なる魅力向上を...。
所詮は鉄火場の腹固めにてそういうもんだと割り切れば何てこともないけれど副次的なものとて侮れぬ。何もフレンチの名店を呼べと言っとる訳ではあるまいにB級グルメ的な店で十分なれど売店の出店の差配握るは地主側。あそこの土地は民間所有にて組合が地代払って興行をしとるのだけど、そこまで口を挟まれてはかなわぬとAセンセイ。
バブル時代の負の遺産、経営改善が叫ばれつつも市内小学生の入館料収入に支えられ一向に復調の気配見えぬ収支に投じられる補助金。退くも進むも茨の道にていっそ「廃止」を決断すべきとの一文を団長(当時)の指示で手を入れたのが数年前。当人から折角の原稿を骨抜きにされたと今以て恨み節をこぼされる市民ミュージアム。美術鑑賞を趣味とする知人にそのへんの評価と世の動向を聞く機会に恵まれた。
収益を生み出すは常設展ならぬ企画展。そのへんはキュレーターの腕とそれを支える経営判断に負う面大きいのだそうでここ何年かは悪くないと意外な評価。確かにゴルゴ展も来たからナ。失敗しがちな高額の美術骨董品の所蔵はないし、立地とて駅前一等地とは言えぬまでもかろうじて徒歩圏内ゆえあとは...。
都内どこぞの美術館なんぞはフレンチの巨匠招いたレストランはランチも大盛況だそうで、こちとら鉄腕アトムを彷彿させる前衛的なモニュメントの芸術性は分からんけど、子供遊ぶ芝生を横目に優雅なランチはアリかもしれぬ。名店にあらずとも外の景色見渡せる開放的なレストランスペースの入居見つからぬのは残念ではないか。
(平成30年12月25日/2472回)