陰徳

そう、慣れぬことをするもんだから...。前回の画像が粗すぎたそうで、更新してありますゆえ再度「じっくり」と御覧あれ。
夏が万年雪ならば冬は...常夏の海。どこまでも続く碧緑色の海に青い空。エコアイランドと名の付いた宮古島マラソンを完走した。大会の宣伝に利用される一枚の写真、伊良部島に伸びる全長3.5キロの橋からの絶景は見応え十分も降り注ぐ灼熱の太陽に侮れぬ橋梁の起伏。終盤の失速は明らかな練習不足なれど折返し前とあっては原因は別にあり。
棄権の判断が脳裏をかすめた直後に少し前のランナーが倒れ込んで救急搬送された。気温三十度にインナー着用とあらば体内温度も上昇する訳で脱衣と水分補給にて窮地を脱した。途中、隣のランナーが声をかけてくれてゴールまで雑談に興じつつ併走。余計な体力を消耗する訳にはいかぬと拒む御仁も居られるのだけれども気が紛れるからね。やはり孤独の道中はツラい。
ゴールを待ち受けるNさんの完走記録は3時間04分。惜しくもサブスリーを逸したと語る当人の出走はハーフにて。そんなNさんに見送られてタクシーで一路空港に向かい、シャワーも浴びずにそのまま機内に駆け込んだ。完走から離陸まで数十分。到着は前日の夕刻、出発は翌日のほぼ同時刻にて滞在時間はちょうど二十四時間。はるばる南国の島まで何しに行ったのかね。そう、あれは去年、何かの折に「走ろう」と固い握手を交わして迎えた今年。何とか男同士の約束を果たし得た。
そう、沖縄といえば基地?いや、それは別な機会に譲るとしてやはり...ハブ。が、この宮古島だけはハブは生息していないのだそうで。それもそのはず御当地には山が無く、ってことは川も無い。つまりは地下水に依存せざるを得ないから水への意識高く。そんな事情を教えてくれたのは地元のUさん。Nさんとは十三年ぶりの再会だそうで前夜の壮行会。私の生い立ちを紹介していただいた際にUさんが口を挟んだ。
Uさんによれば島の恩人が新潟県人だそうで今も交流が続いている「はず」と。薩摩藩の支配下において重税を課された琉球王朝の矛先が向いたのがこちら。何せ先島諸島、先の島だからね。にわかに信じがたいが、過去には人頭税なんてのがあって島内には不格好な形をした岩が残る。「賦測石」と呼ばれるその岩は当時の名残だそうで、背丈がその岩を超えると税が課せられたとか。
そんな人頭税の廃止に尽力された人物が島民ならぬ新潟県人だったと。今は便利、スグに調べられるからね。中村十作という人物にあたるも過去に名を聞いたことなく。さもありなん、著述によれば当人は郷里の実家に一切語らず、それを知ったのは死後に御当地の中学校長からの手紙だったとか。井戸を掘った人の恩は忘れるなとはよくいったもので世に知られずとも村に語り継がれる功績。
私なんかは血縁でもなく、たまたま「同郷」だったってだけなんだけれども御厚意に預かり、ものすごくデカい伊勢エビを筆頭に狭しと並ぶ郷土料理の数々と地元の泡盛。それでいて御代は要らぬなどと言われると...やはり持つべきはコネと郷里の偉人だね。いやいや、それでいてさすがに「ごっつぁん」とはいかぬ訳でNさんの居ぬ隙に押し問答があって「足りぬでしょうが、残りは御馳走になりますゆえ」と相手のポケットにねじ込んだ。
(平成30年11月10日/2464回)